イギリスの相続制度

国際課税
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オーストラリアの原子力潜水艦をどの国がサポートするのかで、EUに亀裂がでているようです。当初、オーストラリアはフランスと7兆円近い金額での原潜製造計画を進めてきましたが、ここにきてイギリスが巻き返し、アメリカと手を組んでフランスの計画を頓挫させました。

英国のジョンソン首相は「グローバル・ブリテン」とした外交方針を表明していますが、英国は世界との結びつきをより強める戦略のようです。産業革命で世界を席巻したイギリスは母国語を世界に広め、「言語」を世界共通にするという資産を築きました。「言語」は文化や法律と密接に関連するので、その後の影響は計り知れません。

ところで、今回はそのイギリスの相続制度について紹介したいと思います。

イギリスは日本の法体系と異なるコモン・ローの国として有名です。それだけに日本とは異なる独特な相続手続きや考え方が存在しています。イギリスで相続が発生した場合、まず遺言での相続(法定相続は二の次で遺留分もない)が優先され、故人の財産は「Personal Representative(「人格代表者」と訳されることが多い)」に帰属し清算されるのが一般的です。

この「Personal Representative」という概念は、「Executor(遺言執行者)」又は「Administrator(遺産管理人)」によって構成されます。遺言者によって選任された個人(法人を含む)が受託すれば「Executor」、遺言がない或いはあっても「Executor」が選任されない場合などには「Administrator」が裁判所によって選任されます。「Executor」は「Personal Representative」として、各種申請手続きを「Principal Registry(登録所)」又は「District Probate Registry(地方登録所)」にて行う必要がありますが、その際イギリスでは相続税の手続きも必要となります。故人の財産債務を確定して相続税を支払い、債務を清算し管理費用(葬式費用を含む)等を差し引いた残余財産を遺言に基づき分配していきます。

イギリスの相続法(遺言法等)は日本人もイギリス人と同様に扱いますので、日本人がイギリスで亡くなると、これらコモン・ローのルールに則って相続手続きを行います。

ちなみに、遺言は書面であることが必要で、遺言者の署名はもちろんのこと、2名以上の証人の存在も必要です。例えば、イギリスの弁護士事務所の中で、遺言執行者を当事務所の弁護士に指名した遺言書を作成すれば、本人署名欄の後段に、「First witness」「Second witness」として当事務所の「Secretary」が署名をすることで、イギリスの遺言書を有効に作成します。

日本に申告義務がある相続人が居住している場合、上記遺言書の写しや、清算書(Estate Accounts:財産目録や検認済みの各種申請書類等)をイギリスの関係者から郵送等で取り寄せ、日本の相続税申告に間に合わせる必要があるので注意が必要です。